雪嗣は僅かに表情を和らげると、まっすぐに前を向いて黒い獣を見据えた。
この頃には、雨はバケツをひっくり返したような有様となっていた。
積乱雲が気まぐれに起こした豪雨は、視界を塞ぎ、雨音で耳をも塞ぐ。
しかし、雪嗣の声は雨音に遮られることはない。
耳に心地よく響く少し低めの声が、辺りに朗々と響く。
「神に逆らうことの愚かさを教えてやろう」
雪嗣は、叶海がいるのとは反対の手をひらりと翻した。それはまるで、日本舞踊の仕草のように優雅で、柔らかな動きだ。扇でも持っていた方がしっくりくるかもしれない。手のひらの行方を無意識に叶海が目で追っていると、ふと雨音が止まっているのに気が付いた。
「ん……?」
驚いた叶海が首を巡らせると、今まさに大地に降り注ごうとしていた雨が、宙で止まっているのを見てしまった。
「な、なに……!?」
理解の範疇を超えた現象に、叶海は慌てて周囲を見回す。すると、自分たちの周囲だけ雨粒が空中で静止しているのを見つけて、盛大に顔が引き攣った。
「慌てないでいい。水は俺の眷属で、俺の僕だ」
雪嗣が叶海を落ち着かせるようにそう言うと、また手のひらを翻した。その瞬間、彼の周囲に存在していたあらゆる水が、手の動きに付き従った。
雨は落ちるのを止め、地面に溜まっていた水は揺蕩うのを止めた。意思を吹き込まれたかのように雪嗣のもとへと集まると、大蛇へと変じる。そして大きな頭をもたげて黒い獣を一瞥すると、ざざ、と水音をさせながら怒濤の勢いで襲いかかった。
この頃には、雨はバケツをひっくり返したような有様となっていた。
積乱雲が気まぐれに起こした豪雨は、視界を塞ぎ、雨音で耳をも塞ぐ。
しかし、雪嗣の声は雨音に遮られることはない。
耳に心地よく響く少し低めの声が、辺りに朗々と響く。
「神に逆らうことの愚かさを教えてやろう」
雪嗣は、叶海がいるのとは反対の手をひらりと翻した。それはまるで、日本舞踊の仕草のように優雅で、柔らかな動きだ。扇でも持っていた方がしっくりくるかもしれない。手のひらの行方を無意識に叶海が目で追っていると、ふと雨音が止まっているのに気が付いた。
「ん……?」
驚いた叶海が首を巡らせると、今まさに大地に降り注ごうとしていた雨が、宙で止まっているのを見てしまった。
「な、なに……!?」
理解の範疇を超えた現象に、叶海は慌てて周囲を見回す。すると、自分たちの周囲だけ雨粒が空中で静止しているのを見つけて、盛大に顔が引き攣った。
「慌てないでいい。水は俺の眷属で、俺の僕だ」
雪嗣が叶海を落ち着かせるようにそう言うと、また手のひらを翻した。その瞬間、彼の周囲に存在していたあらゆる水が、手の動きに付き従った。
雨は落ちるのを止め、地面に溜まっていた水は揺蕩うのを止めた。意思を吹き込まれたかのように雪嗣のもとへと集まると、大蛇へと変じる。そして大きな頭をもたげて黒い獣を一瞥すると、ざざ、と水音をさせながら怒濤の勢いで襲いかかった。