「――なんでもない。それで、怪我はないか」
「う、うん。大丈夫。助けてくれてありがとう」
叶海が途切れ途切れにお礼を言うと、雪嗣は彼女の頭をポンと叩いた。
そして、雪嗣は徐々に距離を詰めようとしている黒い獣を睨みつけて言った。
「大人しくしていろ。この場所で、一番安全なのは俺の傍だ」
「……へ?」
その瞬間、雪嗣はおもむろに叶海を抱き寄せた。
かあ、と叶海の顔が茹で蛸のように赤くなる。意中の相手と密着している。叶海が想像していたよりも逞しい腕が肩を抱き、濡れた服越しに他人の体温を感じて、叶海は途端に羞恥心に見舞われた。
「な、なななにを……!」
「黙っていろ。集中できないから」
「そ、そういうことじゃなくて! 私、邪魔だったらひとりで隠れているから……」
すると雪嗣は、不満そうに眉を顰めた。
「駄目だ。万が一にでもなにかあったら困る」
「大丈夫……」
「駄目だと言っている!」
かなり強い口調で言葉を遮られ、叶海は怯えたようにびくりと身を竦めた。
普段の雪嗣は、ブツブツ文句を言いながらも、叶海に強い感情をぶつけることはない。しかし、今の雪嗣は見たことがないくらいに切羽詰まっていた。それはまるで、叶海が自分の見えない場所へ行くことを恐れているようだ。
「……わかった」
叶海が頷くと、雪嗣の目元が柔らいだ。その安堵したような表情に、一瞬見蕩れた叶海は、しかし同時に違和感を覚えて口を引き結んだ。
確かに自分に向けられているはずの雪嗣の視線が、まるで自分の向こうを見ているような感覚がする。雪嗣の瞳は、叶海を見ているようで見ていない。
それは、叶海を酷く不安にさせるものだった。
しかしそんな叶海の変化に、雪嗣はまるで気が付く様子はなく、淡々と言った。
「すぐに終わる。俺を信じろ」
その言葉に、叶海は覚悟を決めた。両腕で雪嗣の胴にしがみつく。
「う、うん。大丈夫。助けてくれてありがとう」
叶海が途切れ途切れにお礼を言うと、雪嗣は彼女の頭をポンと叩いた。
そして、雪嗣は徐々に距離を詰めようとしている黒い獣を睨みつけて言った。
「大人しくしていろ。この場所で、一番安全なのは俺の傍だ」
「……へ?」
その瞬間、雪嗣はおもむろに叶海を抱き寄せた。
かあ、と叶海の顔が茹で蛸のように赤くなる。意中の相手と密着している。叶海が想像していたよりも逞しい腕が肩を抱き、濡れた服越しに他人の体温を感じて、叶海は途端に羞恥心に見舞われた。
「な、なななにを……!」
「黙っていろ。集中できないから」
「そ、そういうことじゃなくて! 私、邪魔だったらひとりで隠れているから……」
すると雪嗣は、不満そうに眉を顰めた。
「駄目だ。万が一にでもなにかあったら困る」
「大丈夫……」
「駄目だと言っている!」
かなり強い口調で言葉を遮られ、叶海は怯えたようにびくりと身を竦めた。
普段の雪嗣は、ブツブツ文句を言いながらも、叶海に強い感情をぶつけることはない。しかし、今の雪嗣は見たことがないくらいに切羽詰まっていた。それはまるで、叶海が自分の見えない場所へ行くことを恐れているようだ。
「……わかった」
叶海が頷くと、雪嗣の目元が柔らいだ。その安堵したような表情に、一瞬見蕩れた叶海は、しかし同時に違和感を覚えて口を引き結んだ。
確かに自分に向けられているはずの雪嗣の視線が、まるで自分の向こうを見ているような感覚がする。雪嗣の瞳は、叶海を見ているようで見ていない。
それは、叶海を酷く不安にさせるものだった。
しかしそんな叶海の変化に、雪嗣はまるで気が付く様子はなく、淡々と言った。
「すぐに終わる。俺を信じろ」
その言葉に、叶海は覚悟を決めた。両腕で雪嗣の胴にしがみつく。