「な、なに……!?」

 それは、龍神である雪嗣には似ても似つかない姿をしていた。

 雪嗣を朝靄のような白色だと例えるならば、それは陽の光が差し込まない井戸の底に揺蕩う闇だ。じっとりと湿った黒色を持つ……()

 四つ足で、長い尾を持っている。鋭い牙を剥き出しにして唸る姿は、狼そのもの。

 けれど、目も鼻も毛並みも見えない。黒一色で塗りつぶされたようにのっぺりとしていて、動く度に陽炎のように揺れる。それは誰が見ても普通の生き物ではない。

 そして、叶海の全身が粟立つほどに禍々しい雰囲気を纏っていた。

「あ……」

 息をするのも忘れて、黒い狼を見つめる。

 その間にも雨脚は強まり、すでに白糸のような雨が降り始めている。視界は白く烟り、服に雨が染みてくる感覚がどこまでも不快だった。