龍神様の押しかけ嫁

 すると彼女たちは、山盛りのお菓子を摘まみながら、雪嗣との思い出を語り始めた。

「うちの子も孫も、全員龍神様に名を貰ったんだぞ。ほんとにありがたいことで」

「龍沖村出身の子は、みんな龍神様に顔見せしてっからなあ」

「沢の下の田んぼ。でっかい石が埋まってんの、取り除いてくれたのも龍神様だ」

「うちの爺さんが大病した時は、鱗を一枚分けて貰ったんだ。そのおかげか、病気は治ったけども、逆に元気になり過ぎちまって」

「早く死ねってか! 酷えババアだ」

「そ、そういうことじゃねえべ!」

 幸恵たちが姦しく話しているのを聞きながら、叶海はぼんやりと外へ目を向けた。

 山間に広がる僅かな平地に、田園と畑、そして民家が点在している。

 澄み切った青空に、もくもくと盛り上がった入道雲。真夏の太陽の光を浴びて、田園に満たされた水がキラキラ輝く。畑には赤々と色づいたトマトが鈴なりに生っていた。濃緑の葉の合間から顔を覗かせる夏の恵みは、見るからに瑞々しそうだ。

 目を細めたくなるほどに光に満ちあふれた世界。思わず筆を執りたくなるようなこの村は、まるで時間が止まっているかのようにのどかだ。

 この光景こそが、雪嗣が長年守り続けてきたもの。

 雪嗣がいたからこそ存在している光景なのだ。

「……雪嗣って本当にすごいんだね」

 思わずポツリと本音を零すと、賑やかに話していた女性たちが一瞬黙った。