龍神様の押しかけ嫁

 幸恵は苦笑いを浮かべると、叶海の手から白衣を取った。そして、滅茶苦茶になってしまった縫い目を解いて行く。苦労して縫ったものが、あっという間に無に帰するのを眺めると、叶海はしょんぼりと肩を落とした。

 叶海は裁縫が苦手だ。

 別に手先が不器用というわけではない。絵を描くぶんには指先は驚くほどに器用に動く。しかし、針を持つと途端に人が変わったように動かなくなるのだ。

 しかし、自分で着物を手縫いする時代じゃあるまいしと、今まで放置してきた。

 そして今――その報いを受けているところだ。

「……まあ、いいんだけどさ。練習すればいいんだし」

 それよりも、叶海には気になることがあった。

 それは突然、雪嗣があの家から自分を追い出したことだ。

 仕事であることは間違いないようだが、詳しくはなにも教えてくれなかった。そのことがずっと引っかかっている。

「ねえ、お婆ちゃん。雪嗣の仕事って知ってる?」

「龍神様の? この村を守ってくださることだ」

「そういうことじゃなくて、具体的に!」

 苛立ち混じりに強い言葉を発した叶海に、幸恵はクスクス笑うとそこまでは知らないと首を振った。顔を顰めた叶海は、自棄になってアイスに大口で齧り付く。

 その瞬間、キンと頭に鋭い痛みが走って、思わずテーブルに突っ伏した。

「あらま。大丈夫だか」

 すかさず、幸恵が叶海の頭を撫でてくれる。

 父方の祖母である幸恵とは、村に戻って来るまで疎遠だったが、久しぶりに会う孫にも昔と変わらずよくしてくれる。そんな人に、酷い態度をとってしまったと即座に反省した叶海は、ごめんと小さく謝った。