龍神様の押しかけ嫁

 すると、途端に蒼空が噴き出した。

「ワハハ! それじゃお前、雪嗣と結婚できねえだろうが」

「はっ! ……それは由々しき事態! 雪嗣のお嫁さんになれないなら却下!」

「お前、本当にコイツのことが好きだよな……」

 呆れきった様子の蒼空の言葉に、叶海はふふんと得意げに胸を張った。

「当たり前でしょ。今も昔も雪嗣が一番好き!」

「…………やめてくれ。朝っぱらから恥ずかしいことを叫ばないでくれ!」

 真っ赤になってしまった雪嗣を眺めて、叶海と蒼空は笑っている。

 すると、コホンと咳払いした雪嗣は、蒼空へと向かい合った。

「それで、今日はなんの用だ? 法事のついでに寄ったのか?」

「いや。そろそろ仕事の時期じゃねえかなって思って」

「ああ……」

 蒼空の言葉に、雪嗣はおもむろに外を見た。釣られて叶海も視線を動かす。
今日は雲ひとつない快晴だ。燦々と夏の日差しが照らす世界はとても穏やかで、蝉の声と葉擦れの音だけが満ちている。それは叶海にとって、なんの変哲もないありふれた日常に見えた。しかし、雪嗣からすると違ったらしい。ひそりと形のいい眉を顰めると、どこか神妙な面持ちで言った。

「確かにそうだな。そろそろかも知れない」

 そしておもむろに立ち上がると、奥の部屋へ続く襖に手をかけ、叶海へ向かってどこか平坦な声で言った。

「叶海、昼までどこかで時間を潰してくるんだ」

「……え?」

 意味が分からずに、叶海は首を傾げる。

 叶海にとって、基本的に午前中は家事の時間だ。洗濯は朝一番で済ましているものの、掃除はこれからするつもりだった。この数ヶ月そうしてきたのだが、今日この日まで外へ出ていろと雪嗣に言われたことはなかったのだ。

 それなのに、突然のこの発言である。

 どこか嫌な予感がして、叶海は不安気な眼差しを雪嗣へ向けた。