龍神様の押しかけ嫁

 実は、雪嗣が龍神だと、蒼空は昔から知っていたらしい。

 そもそも蒼空は、雪嗣の世話役としてこの村へやってきたのだという。

 雪嗣は龍神だ。しかし人間と同じように生身の身体を持つ。そして彼は、不死ではあるが不老ではない。その身体が老いてくると、まるで脱皮するように新しい身体を授かる。生まれ変わり、幼い姿になった雪嗣の面倒を見る者がどうしても必要で、見た目の年齢が近い蒼空に白羽の矢が立ったのだそうだ。

 ――なーんか、あるべくしてある関係って感じ。

 すると、叶海が雑念いっぱいの目で二人の姿を眺めていたのがバレたらしい。蒼空は、にんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「おっ。叶海が膨れてるぞ。奥さんを慰めに行った方がいいんじゃねえか」

「だから妻じゃないと何度言ったら」

「じゃあ、なんだよ。身分違いの恋に燃えて、お姫様に求婚しまくる騎士とか?」

「お前、さらっと人をヒロイン扱いするな。俺は男だ!」

「叶海の強引さ、騎士っぽいと思うけどなあ」

 雪嗣の肩を抱いたままの蒼空は、彼の耳もとで笑いながら囁く。雪嗣は蒼空の行為を拒否するでもなく、自然体のままそこにいた。

 ――うっ。心底、羨ましい……!

 叶海は、胃が締めつけられるような思いをしながら、苦し紛れに言った。

「別に膨れてないし。神様と仏教信徒が仲いいって変だなって思っただけ!」

 すると、雪嗣と蒼空は顔を見合わせると、真顔で叶海を見つめた。

「寺も神社も、こんな田舎の共同体の中ではあんまし変わんねえよ」

「明治政府が神仏判然令を出すまで、神と仏は同じ場所で信仰されていたんだ。知らなかったのか?」

「ぐぬぬ……! この私だけ仲間はずれ感……!」

 惨めな気持ちになってきた叶海は、指先で畳の目をなぞりながら嘆いた。

「私も男だったら、雪嗣とそういう関係でいられたのかな……」