龍神様の押しかけ嫁

 その男は、叶海がいつも持ち歩いている写真に写るもうひとりの人物だ。

 幼い頃、龍沖村で叶海たちが一緒に過ごした幼馴染みで、川端蒼空(かわばたそうくう)。今は隣町に住んでいて、そこにある寺の跡継ぎだ。村には子どもが少なかったこともあり、叶海と雪嗣、そして蒼空はいつも一緒だった。

「それにしてもね……」

 叶海は雪嗣と顔を見合わせると、ほうとため息を零した。

「まさか蒼空がお坊さんになるなんて。……世も末だわ」

 少年時代の蒼空は、典型的なガキ大将であり、同時に少しませたところがある男の子だった。盆や正月に都会の子が遊びに来ると、女の子には漏れなく声をかけ、遊びに連れ出す程度には女好きだったのを覚えている。

 そんな蒼空と、禁欲的なイメージがある僧侶は非常に相性が悪いように思えた。

 叶海がそれを口にすると、蒼空はカラカラと豪快に笑った。

「いや、女は今でも好きだけどな。それはそれ。これはこれ! 誰だってそうだろ。ワハハハハ!」

 普段からお経を読んでいるせいか、蒼空の声はやたら大きい。雪嗣は嫌そうな顔をして指で耳を塞ぐと、ちろりと蒼空を横目で見た。

「まったく蒼空はうるさいな。これだから坊主は困る。なあ、いつ髪を剃るんだ? 楽しみにしているんだが」

「ひでえ。うちの宗派じゃ、髪を剃らなくていいんだよ! 妻帯も許されてるしな。それにこんな色男が髪を剃ったら、世の女性たちが嘆くだろ?」

 蒼空は黒髪の短髪を両手の指で引っ張ると、白い歯を見せて笑った。