それを知った叶海は歓喜した。そして、ある作戦を考えついたのだ。

 ――心が掴めないのならば、胃袋を掴んでしまえ……!

 実は、叶海の母は料理研究家だった。幼い頃から散々母の手伝いをさせられていたおかげで、料理には自信がある。だから、嬉々として雪嗣の料理番を買って出た。

 結果はこのとおり。雪嗣の褒め言葉を貰えて、叶海はご満悦だ。

 ――ありがとうお母さん。当時は面倒とか思ってごめん……!

 今思えば、母は叶海になによりも大切なことを教えてくれた。

『男なんてね、胃袋を掴んだらこっちのものよ。私がいなくちゃ生きていけない身体にしてやるの』

 当時は、娘になにを言ってるんだこの人と呆れたものだが、なるほど確かに真理である。美味しいものの威力は絶大だ。求婚は即座に一刀両断する雪嗣も、このとおり、叶海の料理に関しては素直に受け入れている。

 とはいえ、叶海の両親は離婚しているのだが。胃袋云々に関しては、付き合う前に効果的な方法ということなのだろうと、叶海は結論づけていた。

「まあ、嫁にするかは保留にするとして。お昼はパスタ。夜はカツレツにしようね。ミラノ風にしよっかな」

「……そうか」

 叶海の言葉に、雪嗣はまんざらでもない顔で頷いている。

 年寄りばかりの村だから、洋食自体が珍しいのだろう。

 海外から持ち込まれた和食とはまったく異なる味わいは、今まで多くの日本人を虜にしてきた。それはどうやら、神様も例外ではないらしい。

 ――しめしめ。覚悟しておきなさいよ! この調子で料理の虜にして、ここで愛を育むんだから……!