濃厚な出汁でしっとりと焼き上がった卵焼きは、どうやら口に合ったらしい。雪嗣の目もとが緩んでいる。

「美味しい?」

 嬉しくなって訊ねると、素直じゃない雪嗣はツンとそっぽを向いてしまった。

 この神様、人より上位の存在のくせに、たまに子供じみたことをする。

 ムッとした叶海は、両手で顔を覆うとさめざめと言った。

「私のご飯、美味しくないんだね。わかった、じゃあ保子さんに代わってもら……」

「待て。待つんだ! 美味い。すごい美味い。作ってくれてありがとう!」

「やった! お嫁さんにしてください!」

「いっ……だ、駄目だ!」

 一瞬、乗せられそうになった雪嗣に、叶海は嬉しそうに笑った。

 雪嗣は頭を抱えると、榛色の瞳で叶海に恨みがましい視線を寄越している。

 この村では、雪嗣の食事は当番制だった。毎食、各家庭持ち回りで食事を作って届けることになっている。しかし、誰もが料理上手というわけではない。

 先日まで当番だった吉村保子は、ちょっぴり(・・・・・)独創的なところがあった。彼女の斬新な発想が活かされた料理の数々に、雪嗣はほとほと困り果てていたらしい。

 ――そう。神様といえど、この世界で身体を持っている以上は食事が必要なのだ。