古来より日本では、人と人ならざるものが結婚する場合、片方が相手の家に押しかけるというのが伝統だ。雪女しかり、鶴の恩返ししかり、民話の中ではよくある話である。叶海はそれに倣うことにしたのだ。

 問題は、民話の多くは、押しかける側が人間じゃない方ということなのだが……。

「……俺の常識が通じなさすぎて、叶海は妖怪変化の類いじゃないかって時々思う」

 雪嗣が呟いた言葉を、叶海はさらりと聞き流した。

 そして、テキパキと朝食の準備を進める。
 土鍋で炊いたつやつやの白米。出汁を丁寧に引いた卵焼き。
カリッと焼いたウインナー。わかめとネギの味噌汁。夏野菜のぬか漬け。
それと……祖母から分けて貰った梅干し。

 祖母の梅干しは雪嗣の好物らしい。

 それを知った叶海は、早朝から祖母宅に分けて貰いに行ったのだ。

 ほかほかと湯気を上げる料理をちゃぶ台の上に並べながら、叶海はなんとなしに思ったことを口にする。

「別々の部屋で寝ているんだし、そんなに気にすることじゃなくない?」

「なっ……! 嫁入り前の嫁が、なにを言ってるんだ。なにを」

「だから、私は雪嗣の押しかけ女房……」

「俺は認めてないって言ってる」

 ブツブツと文句を言いつつも、食卓に梅干しを見つけた雪嗣はどこか嬉しそうだ。

 ――朝から走った甲斐があったなあ……。

 内心ガッツポーズしつつ、ご飯をよそってやる。

 お腹が空いていたらしく、文句を言いながらも雪嗣は料理に手を着け始めた。