しかし、雪嗣は素知らぬふりをして掃除を再開している。
 叶海は歯がみすると、大きく息を吐いて気分を切り替えることにした。

 ――本日も全敗。通算、四十五回目の失恋! 次だ、次……!

 そして、キッと強い意思を籠めて雪嗣の端正な横顔を見つめた。

 正直なところ、叶海自身、別に鈍感なわけではない。フラれたら傷つきもするし、落ち込みもする。今日のことだって別に平気なわけではないのだ。できれば報われたいに決まっている。

 それでも――。

「お子様だって思ってくれてもいいよ。私は雪嗣のことが好きで、だからお嫁さんになりたい。それだけのことだもの」

 例え困難な道のりであろうとも、好きな人が目の前に居る。

 そしてその人には、現在特別な人はいない……。
 たとえそれだけが希望だったとしても、なんらかの「きっかけ」さえあれば、事態が好転するのではないかという期待を捨てきれなかった。

「そうか。でも俺はお前を嫁にはできない」

 ――うっ。四十六回目……!

 だから、こんな風に断られ続けても前を向けた。

 正攻法では叶いそうにもない、自分の恋を成就させるためになにをするべきか?

 叶海に必要なもの、それは「きっかけ」だ。ならば――。

 ――最高に「きっかけ」が作りやすい環境を!