年寄りたちが語る雪嗣のことを、叶海は一言一句忘れないように記憶に刻みつけた。
 まるで、本当の意味で村へ受け入れて貰えたようで嬉しかったからだ。

 大切なことを教えてくれたお礼にと、叶海が雪嗣の嫁になりたいと思っていることを打ち明けた時は、みんな心臓が止まりそうなくらいに驚いていたが。

 その時の年寄りたちの顔を思い出して、叶海はくすりと笑みを零した。そして、この頃にはすっかり慣れてしまった石段を一気に駆け上ると、大きな声で呼んだ。

「雪嗣ー! 朝ごはんにしよう!」

 雪嗣を捜して境内を見渡す。走ったせいで、服が乱れていないか確認するのも忘れない。ボーダーのシャツ、リネンのスカートに編み上げのサンダル。それに麦わら帽子。特に問題なさそうだ。

 すると、奥の方に箒を手に掃除をしている雪嗣を見つけた。
 途端、とくんと叶海の心臓が高鳴った。