「……もう! すぐに茶化すんだから」

 叶海が呆れた声を出すと、雪嗣がクスクス笑った。

「あれも気を遣ったんだろうさ。色々思うところもあるだろうし」

「……?」

「叶海が気にすることじゃない。忘れていい」

「すんごく気になるんですけど!?」

 じろりと雪嗣を睨みつける。

 しかし当の本人はどこ吹く風だ。叶海の渾身の眼力は、まったく通用しそうになかった。ぷくりと頬を膨らませた叶海は、ぴしりと雪嗣に指を突きつけ言う。

「――いつか絶対聞き出してやるんだからね!」

「それはいい。これからの人生を共にするんだからな。時間はたっぷりある」

「……もう!」

 叶海はほんのり頬を染めると、ぷいとそっぽを向いた。

 雪嗣の笑い声が聞こえる。叶海の反応を楽しんでいるらしい。

 ――結婚が決まっても、子ども扱いするんだから。

 叶海は少しだけむくれると、そっとポケットの中に手を差し込んだ。