「合併するとどうなるの?」

「ここの社の管理が合同になる。隣町の土地神の神社も老朽化が進んでいてな。うちの社を再建したら、合祀することになった。隣町もそれほど人口が多いわけではないが、それでも今よりは随分とマシになるだろう」

 すると蒼空も話に加わった。

「それに、今は移住ブームらしくてな。龍沖村の空き家を、若い人へ格安で貸し出すなんて話も出てるんだぜ。この村の奴らは、雪嗣のもとで暮らしてきたせいか、みんな気性が穏やかだ。若いもんも柔軟に受け入れるだろうさ」

「……そっか……!」

 叶海はパッと表情を輝かせると、ほうと息を吐いた。そんな叶海を、雪嗣は目を細めて眺めている。彼女の頭を撫でてやりながら、愛おしそうに言葉を紡ぐ。

「安心しろ。叶海を看取るまで俺は消えない」

「雪嗣……!」

 頼もしい未来の夫の言葉に、叶海は感激で瞳を潤ませている。

 しかし、蒼空からすると、ふたりが放つ雰囲気は甘ったる過ぎたらしい。彼は今にも嘔吐きそうだ。

「ああ! もう駄目だ。苦い珈琲が飲みてえ。幸恵さんとこに行ってくる」

 そしてふたりに背を向けると、ヒラヒラと手を振って茶化すように言った。

「次に会うときは、もうちょっと手加減してくれ。今度は俺の心が死ぬ」

 そして蒼空は、ひょいひょい軽い足取りで地面に転がっている建材をまたぐと、さっさと石段へ向かって行ってしまったのだった。