龍沖村には、ある伝承が今もなお伝わっている。

 大昔、村が度重なる水害に喘いでいる中、怪我をした白蛇が村に現れたのだという。

 昔から、白蛇は神の遣いであると信じられてきた。

 信心深い村人たちは、神が自分たちを試しているのだと考え、手厚く看病してやったのだという。すると、傷が癒えた白蛇がみなを集めてこう言った。

『助けてくれた礼に、荒ぶる川を宥め、この地を守ってやろう』

 その白蛇は、神の遣いなどではなく、神そのもの――龍神だったのだ。

 龍神の言葉通り、次の日には荒れていた川がすっかり大人しくなっていた。
更には頻発していた水害は治まり、次の年から豊作が続き、村は潤った。

 それが雪嗣と龍沖村との出会いであり、始まりだ。

 以来、雪嗣はこの村に棲み着き、村人たちと共に暮らしている。