とん、てん、かん、と境内に賑やかな音が響いている。

 境内を渡るのは温かな春の風だ。

 芽生えたばかりの初々しい緑の匂いを含んだ風は、社の再建に当たっている大工の頬を掠めると、そのまま満開の桜の枝を揺らした。

 ようやく訪れた穏やかで賑やかな季節。穢れによって壊されてしまった社が、徐々に元の姿に戻りつつあるのを眺めていた叶海は、手にしていた荷物を抱え直すと、境内の中央に立つ人物に近寄って行く。

「お疲れ様! 蒼空、雪嗣」

「おう。お疲れ」

「叶海、今来たのか」

 叶海はふたりに手にした荷物を見せると、にんまり笑った。

「お昼のお弁当作ってきたの。大工さんも含めて全員分」

 すると、叶海の大荷物を目にした雪嗣の顔が綻んだ。

「ありがたいな。だが、大変だったろう?」

「いいの、いいの。これくらい。だって……」

 叶海はほんのり頬を染めると、照れているのかそっぽを向いて言った。

「もうすぐ雪嗣のお嫁さんになるんだから。当たり前だよ」

「……そうか」

 雪嗣は目もとを和らげると、叶海の頭をポンと叩いた。

 叶海はへらりと顔を緩めると、気持ち良さそうに目を細める。

 二人の様子を眺めていた蒼空は、小さく肩を竦めると、頭を掻きながら見ないふりをしてやった。