……もったいなかったかなあ……!?

 勢いで断ってしまったものの、みるみるうちに後悔が募ってくる。

「今のなし!」とやり直しを提案したい。

 もしかしたら、この雰囲気ならいけるのではないか……?

 そんな気持ちで、叶海の胸がいっぱいになっていると、突然、蒼空が噴き出した。

「ふはっ! ワハハハハハハ!」

 そしてお腹を抱えて大笑いし始めた蒼空は、雪嗣を指さして言った。

「フラれてやんの! ざまあ! 叶海を何度もフッた報いだな!」

「ちょ、蒼空……!? 失礼でしょ! って、私いつこの人にフラれたの!? わああ、なに。なんなの、知らないうちに失恋歴更新しないでよ!」

 なんて夢だろう。色々と突拍子もなさ過ぎて、頭を抱えたくなる。

 あまりのことに叶海が頭を抱えていると、誰かの笑い声が聞こえてきた。

 まさか、とそろそろとそちらに顔を向ける。するとそこには、口もとを押さえて、心からおかしそうに笑っている雪嗣の姿があった。

「そうか。叶海はいつもこんな気持ちだったんだな。……悪いことをした」

 雪嗣は柔らかな笑みを浮かべると、そっと叶海の頭に手を伸ばした。

「好きな男がいるわけではないんだよな?」

 そして、叶海を甘やかすように頭を撫でながら訊ねる。

 あまりの極上の感触に、クラクラしながら叶海が頷くと、雪嗣はキラリと目を光らせて言った。

「なら、諦めないからな」

「えっ」

 そして――叶海の顎に手を添えて自分の方に顔を向かせると、どこか自信たっぷりに言い切った。

「俺は、きっといい夫になるぞ」

「~~~~っ!」

 その瞬間、叶海は自分の心が震えているのを感じて、思わず天を仰いだ。

 冬の晴れ渡った空だ。

 雲ひとつない薄い水色の空から、ちらちらと粉雪が落ちてくるような――そんな空。

 叶海は宙を楽しげに躍る白色の欠片に僅かに目を細めると、しみじみと呟いた。

「勝てる気がしない……」

 そう遠くない未来、自分はきっと雪嗣に夢中になっていることだろう。

 そんな予感がして、叶海は小さくため息を零したのだった。