「叶海、俺の嫁になってくれないか」

「――えっ?」

 あまりにも唐突な求婚に、叶海は顔が熱くなるのを感じていた。

 身体が震え、相手の言葉を理解するのに僅かばかり時間を要する。

「いや、あの。ええと……?」

 冗談ですよね、と場を濁そうとして、けれど雪嗣の真剣な眼差しに本気を感じて止めた。叶海は、恥ずかしそうにもじもじと身体を動かすと――。

「――ごめんなさい! 会ったばかりですし、ええと……今はちょっと無理!」

 と、勢いよく断った。

 その瞬間、場の空気が凍り付く。

 二人の様子を見守っていた村人たちは、ポカンと口を開けたまま硬直した。

「フラ……れた……?」

 当の雪嗣も、愕然とした表情で叶海を見つめている。

 すると、叶海は申し訳ない気持ちがこみ上げてきて、思わず色打ち掛けの袖で顔を隠した。

 ――ああ。イケメンの求婚を断ってしまった……!

 なにせ、まともに恋もしたこともない叶海では、唐突な求婚は荷が重かったのだ。

 正直なところ、求婚はとんでもなく嬉しかった。

 びっくりした。今だって、空も飛べそうなくらいにフワフワしている。

 けれど、叶海はアラサーなのだ。将来のことを考えると、安請け合いするわけにはいかない。叶海だって、快適な老後のために色々と考えてはいるのだ!

 しかし――。