「叶海」

　どこかで女性の声がする。

「叶海、起きて」

　もう少し眠っていたい叶海は、ううんと唸りながら身体を捩った。

　しかし、声の主は容赦がない。氷のように冷たい手で叶海の耳を鷲掴みにすると、顔を寄せて大声で叫んだ。

「叶海！　起きろ！　こんの、ねぼすけが！」

「――はっ……！」

　叶海はぱっちりと目を開けると、寝起きでぼんやりした頭で周囲を見回す。

「え。なんで……」

　そして、自分がよくわからない状況に置かれているのに気が付いて、しばし考えた後、再び目を瞑った。すると、すぐ傍から抗議の声が聞こえた。

「おい。どうしてまた寝ようとするんだ！」

「だって周りみんなが喪服で、なんか棺まであって、自分が色打ち掛け着てる状況を、寝起きですぐ受け入れろって言う方が難しくない!?」

　目を瞑ったまま答える。しかし、叶海の事情など相手はお構いなしだ。

　ガクガクと叶海の身体を揺さぶると、必死な様子で叫んだ。

「ええい、いいから起きろ。話があるんだ！」

　仕方がないので、そろそろと瞼を開ける。

　すると、すぐそこに見知らぬ男性の顔があるのに気が付いて、驚きのあまり何度か目を瞬いた。しかし――。