「だから、龍神様。オラのことはもういい。いいんだよ、オラっていう呪縛から解き放たれても」

 ――ああ。

 その時点で、雪嗣はすべてを理解した。

 おもむろに梅子の顔へ手を伸ばす。

「……梅子」

 梅子が生きていた頃と同じように、優しい声で呼びかける。

「……やめてけれ」

「嫌だ」

「やめれって言ったべ!」

「嫌だと言った」

 そして涙で濡れてしまった梅子の頬を指で拭うと、ぐいと抱き寄せた。

「お前は本当に昔からわかりやすいな。辛い時ほど笑うんだ」

 笑い混じりに言った雪嗣の言葉に、梅子はぴくりと肩を震わせる。

 雪嗣は梅子の耳もとに口を寄せると、そっと囁くように言った。

「……叶海は、梅子の生まれ変わりなんだな?」

 身を固くした梅子に、わかりやすい奴だと雪嗣は笑う。

「生まれ変わりは、前世のままの記憶を保てない。叶海は叶海であって、梅子では決してない。お前はそれが嫌なんだろう」

 蕩々と語る雪嗣に、梅子は黙ったままだ。

 雪嗣は梅子の頭を優しく撫でると、どこか緩んだ表情で言った。

「でもな。梅子には悪いが、少し安心してしまった」

「はっ……!?」

 その瞬間、勢いよく梅子が頭を上げた。瞳を滲ませて、顔真っ赤にして震えている。そして、両拳を握りしめた梅子は、雪嗣のことをポカポカ叩きながら言った。

「こ、これで叶海と心置きなく結婚できるってか!? ひでえ、なんてひでえ神様だ! 薄情者! 浮気者! まっしろ蛇おばけ!」

「違う! ええい、話を聞け!」

 雪嗣は梅子の手首を掴んで動きを封じると、真摯な眼差しを向けた。

「俺が安堵したのは、叶海に惹かれた理由がわかったからだ」

「り、理由……?」