叶海が久しぶりに龍沖村を訪れたのには訳がある。

 それは、叶海が抱える問題を解決するためだ。

 彼女を幼い頃から縛り続けている――「初恋の呪い」。

 それから解放されるために、わざわざ東北くんだりまでやってきたのだ。

 叶海のポケットには、いつだって一枚の写真が入っている。
 かつて仲が良かった幼馴染み同士で撮った写真だ。何度も眺めていたせいか、皺くちゃになって折り目がついてしまったそれには、三人の人物が写っている。

 ひとりは叶海自身。もうひとりは村でも評判のガキ大将。

 もうひとりは――利発そうな男の子。名を小沢雪嗣(おざわゆきつぐ)という。

 榛色の瞳に、柔らかそうな茶色の髪。日本人にしてはかなり色素が薄いのが特徴の男の子で、どこか王子様然とした整った顔立ちをしている。

 当時の叶海は、彼のことが心底好きだった。所謂、初恋の相手だ。

 しかし小学校卒業と同時に、龍沖村から出て行くことになった叶海は、この恋を諦めざるを得なかった。両親が離婚し、母方へついて行くことになったせいで、父方の田舎であったこの村は遠いものになってしまったのだ。

 叶海の初めての恋。それは、想いを告げることすらなく終わってしまった。

 雪嗣とはそれきりだ。