――それにしても。
普通ならばあり得ないことだ、と雪嗣は考える。
俗に、幽霊などが他人に取り憑くことを憑依と言う。凝り固まった怨念や穢れなどが人に取り憑くことはままあることで、憑依された人間は、生気を吸われて弱ったり、暴力的な行動に出ることが多い。
雪嗣も、そういった手合いを相手にしたことがあった。
特に、この辺りは穢れが噴出しやすい場所だからなおさらだ。
だから、憑依された人間を雪嗣が見落とすわけがない。
しかも相手は叶海だ。幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた叶海に、なにかが憑依していたとしたら、真っ先に雪嗣が気が付かないとおかしいではないか。
――なにかを隠している……?
雪嗣は梅子をじっと見つめ、観察する。
雪嗣は、彼女のことをよく知っているつもりだった。どこかに不自然なところがあれば、すぐにわかるはずだ。
そんな雪嗣の視線に気が付いているのか、いないのか――梅子は更に話を続ける。
「おかげで……色々と知れた。この娘の目を通して、今の村の状況も、村の外の世界のことも」
そして自身の胸に手を当てると、ほうと熱い息を漏らした。
「この娘の気持ちも。胸に抱えているものも。この娘が、龍神様から向けられている眼差しも。ときめきも、苦しみも全部」
ぽたり、透明な雫が梅子の手に落ちる。
「オラのせいで、龍神様が苦しんでいることも。知っちまったんだ……」
梅子は、涙で濡れた手を強く握りしめると、やけに晴れ晴れとした顔で雪嗣を見つめた。その顔に見覚えがあった雪嗣は、僅かに眉を顰める。
「だから、オラ決めたんだ。龍神様のことはもういいやって」
更にはおもむろに蒼空を指さすと、にんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「生まれ変わったら、オラ、今度はああいう色男に恋をするんだ!」
「お、俺!?」
「ふふふ。男は甲斐性だべって、叶海の友だちも言ってたしな! そんで、物語になるくらいの大恋愛をする。誰からも羨ましがられる温かい家庭を築くんだ。梅子を待ってたらよかったって、龍神様が悔しがるくらい」
そして梅子は、雪嗣に向かってどこか決意の籠もった眼差しを向けた。
普通ならばあり得ないことだ、と雪嗣は考える。
俗に、幽霊などが他人に取り憑くことを憑依と言う。凝り固まった怨念や穢れなどが人に取り憑くことはままあることで、憑依された人間は、生気を吸われて弱ったり、暴力的な行動に出ることが多い。
雪嗣も、そういった手合いを相手にしたことがあった。
特に、この辺りは穢れが噴出しやすい場所だからなおさらだ。
だから、憑依された人間を雪嗣が見落とすわけがない。
しかも相手は叶海だ。幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた叶海に、なにかが憑依していたとしたら、真っ先に雪嗣が気が付かないとおかしいではないか。
――なにかを隠している……?
雪嗣は梅子をじっと見つめ、観察する。
雪嗣は、彼女のことをよく知っているつもりだった。どこかに不自然なところがあれば、すぐにわかるはずだ。
そんな雪嗣の視線に気が付いているのか、いないのか――梅子は更に話を続ける。
「おかげで……色々と知れた。この娘の目を通して、今の村の状況も、村の外の世界のことも」
そして自身の胸に手を当てると、ほうと熱い息を漏らした。
「この娘の気持ちも。胸に抱えているものも。この娘が、龍神様から向けられている眼差しも。ときめきも、苦しみも全部」
ぽたり、透明な雫が梅子の手に落ちる。
「オラのせいで、龍神様が苦しんでいることも。知っちまったんだ……」
梅子は、涙で濡れた手を強く握りしめると、やけに晴れ晴れとした顔で雪嗣を見つめた。その顔に見覚えがあった雪嗣は、僅かに眉を顰める。
「だから、オラ決めたんだ。龍神様のことはもういいやって」
更にはおもむろに蒼空を指さすと、にんまりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「生まれ変わったら、オラ、今度はああいう色男に恋をするんだ!」
「お、俺!?」
「ふふふ。男は甲斐性だべって、叶海の友だちも言ってたしな! そんで、物語になるくらいの大恋愛をする。誰からも羨ましがられる温かい家庭を築くんだ。梅子を待ってたらよかったって、龍神様が悔しがるくらい」
そして梅子は、雪嗣に向かってどこか決意の籠もった眼差しを向けた。

