「生まれ変わりの話は、ひとまず置いておこう。ひとつ訊いていいか。お前はどうして叶海の中にいる?」

 すると、梅子は少しだけ眉を寄せると、僅かに沈黙したのちに話し始めた。

「……気が付いたら、この娘の中にいたんだ」

 俯き加減でそう言った梅子は、どこか不安そうに瞳を揺らした。

 梅子曰く、死んだ後の記憶がかなり曖昧らしい。

 すべて靄がかかったようにはっきりとせず、自分がどういう状況にいるのかさえ理解していなかったのだという。

「ある日突然、意識がハッキリしたんだ。そしたら……オラの目の前に、ちっこい龍神様がいた」

 燦々と太陽の光が差し込む、五月蠅いくらいに蝉が鳴いていた夏の日。

『お前――なにしてるんだ』

 梅子が覚醒したのは、雪嗣が叶海に声をかけた日のことだった。

 意識だけはあるが、身体を動かせない。まるで叶海の内部から外の風景を見ているような、不思議な状況だったのだという。

 それ以来、梅子は叶海の目を通して世界を見てきた。

 幼少期を龍沖村で、そしてそれ以降を都会で過ごしてきたのだ。

「ある意味、オラも三人の幼馴染みみたいなもんだべ。すげえだろう」

 梅子はそういうと、どこか得意げに笑った。

 海に、山に、川に、春夏秋冬、龍沖村の豊かな自然の中で遊ぶ子どもたち。

 自由気ままになににも縛られず、心の赴くままに幼少期を過ごす三人を、梅子はずっと傍で見守ってきた。

「羨ましかった。オラと龍神様の距離が縮まったのは、大人になった後だったから。楽しかった。いろんな遊びをしたなあ。オラの生きてた時代とはいろんなものが違っていて、新鮮だった」

 そう言うと、当時のことを思い出しているのか、梅子は目もとを和らげた。
 なんとも穏やかな表情だ。梅子にとって、その体験は存外悪くなかったらしい。