「龍神様は、真面目過ぎるところが玉に瑕だべな」

 棺の縁に手をかけ、上半身を起こしたその人は、そう言うとふんわり笑った。

 その微笑みは、冬の薄い色の空に、ぽつんと彩りを添える梅の花のようだ。

「かなっ……み……?」

 叶海が蘇ったのかと、一瞬だけ雪嗣の表情が喜色に染まった。けれど、その表情はすぐに色褪せてしまう。何故ならば、強烈な違和感に襲われたからだ。

 目覚めた叶海は、やけにぎこちない動きをしていた。何度も何度も手を滑らせて、棺をまたぐのも苦労しているようだ。まるでそれは、扱い慣れないものを無理矢理動かしているような、そんな気持ち悪さがある。

「ホラ。手ぇ貸せ」

「お坊様、ありがとう」

 蒼空が手を貸してやり、叶海はようやく地面に降り立った。

 そして、地べたに座り込んだままの雪嗣の前までやってくると、その場にぺたりと座って、ほう、と息を漏らす。

 そしてへらっと気の抜けた笑みを浮かべると、ぺこりと頭を下げて言った。

「お久しぶりだべ。龍神様」

 その瞬間、雪嗣はその相手が誰なのか理解した。