「俺のせいか」

 すると、蒼空は淡々と答えた。

「そうだ」

「~~っ!」

 その瞬間、雪嗣は拳を地面に叩き付けた。堅く踏みしめられた雪は、いとも簡単に雪嗣の肌を裂いた。鮮やかな赤が零れ落ち、純白の雪を汚していく。

「どうしてだ。俺に関する記憶は奪ったはずだ」

「叶海は自分で記憶を取り戻したんだよ。でも――そのせいで、絶対にお前と結ばれねえ未来に絶望しちまったんだ」

「絶望……?」

「それだけ、お前のことが好きだったんだ。なあ、雪嗣。人ってよお、本当に……恋煩いで死ぬもんなんだな」

 ――やめてくれ……!

 これ以上、蒼空の言葉を聞きたくなくて、耳を塞ぐ。

 背中に感じる村人たちの視線が、まるで槍のように雪嗣の身体に突き刺さる。

 誰かを守ることに生涯を捧げてきたはずなのに、守るどころか相手を死に追いやってしまった。あまりにも矛盾。あまりにも残酷な現実に、目の前が真っ暗になる。

「俺は! なんのためにここにっ……!」

 雪嗣はその場に膝をつくと、己の無力さを嘆くように天を仰いだ。

「神とはなんだ。守りたい相手も守れない。力をも失いつつある。そんなもの、人間以下じゃないか。ただの役立たず。叶海を殺したのは俺だ。俺のせいで……」

 ――ああ、ガラガラと積み上げてきたものが崩れ落ちていく音がする。

「……う、あああああっ……!」

 そして雪嗣は、両手で顔を覆うと、涙を零しながら蹲った。

 するとその時だ。

「まったく……」

 女性のどこか呆れたような声と共に、雪嗣の視界へ、はらりと一輪の菊の花が落ちてきた。突然現れた柔らかな白色に、雪嗣は動揺しながらものっそりと顔を上げる。

 そしてそこにいる人物と目が合うと、涙で濡れたままの瞳を驚愕に見開いた。