雪嗣は焦った様子で村人たちに近づくと、ひとりひとりの顔を確認していった。

 龍沖村に残る世帯はあと三つ。それほど人数は多くない。葬列に参加していた人々の顔を検めた雪嗣は、呆然とその場に立ち尽くした。

 葬列の中に、ある人物の姿がないことに気が付いたからだ。

『このままじゃ、アイツが死んじまう』

 途端、蒼空の声が蘇ってきて、雪嗣は恐る恐る棺へと視線を移した。

 そんな雪嗣を、葬列に参加している村人たちは、真顔のまま感情ひとつ浮かべることなく見つめている。

 すると、村人たちの中から、とある人物が一歩前へ出た。それは幸恵だ。

 五つ紋付きの黒喪服を身に纏った幸恵は、ボサボサと乱れた髪を寒風に晒し、どこか抜け殻のような表情で雪嗣へ事実を告げる。

「龍神様。これはオラの孫娘の葬列だべ」

 そしてその場に跪くと、顔を覆ってさめざめと泣き始めた。

「――……嘘だ」

 雪嗣はポツリと呟くと、ゆらゆら揺れながら棺へ近づいて行った。

 棺を担いでいた男たちは、雪嗣が近づいてくるのを認めると、棺をそっと雪上に降ろす。そして、雪嗣の行く手を遮らないようにその場から離れた。

「嘘だ。嘘だと言ってくれ」

 寒さでかじかみ、赤くなった手を棺の蓋へ伸ばす。

 この寒空の下だというのに、白木の棺の表面は冷え切っておらず、温度差のせいかほんのりと熱を持っているかのようだった。こくりと唾を飲み込んだ雪嗣は、恐る恐る棺の蓋をずらしていく。

「…………ああ」

 そして、その中に横たわる人物の顔を見た途端、雪嗣は思わず声を漏らした。