龍神様の押しかけ嫁

 ――チィン。

 その瞬間、一団の先頭に居た男がりんを打ち鳴らした。

 そして深い隈が刻まれたその顔で、じろりと雪嗣を睨みつける。

「どうした、雪嗣。こんなところまで迎えに来るなんて、珍しいじゃねえか」

 男……蒼空は、静かな――まるで凪いだ湖面のような声でそう言うと、また、りんを打ち鳴らした。途端、ふわりと線香の香りが鼻を擽り、雪嗣は顔を顰める。

「俺はなにも聞いてないぞ。どういうことだ」

「どういうこともなにも。こういうことだぜ、雪嗣」

 じゃらり、蒼空が手にした数珠が鳴る。普段よりも煌びやかな袈裟を纏った幼馴染みに、雪嗣は冗談であってくれと願いながら訊ねた。

「――誰だ。……誰が死んだ? これは誰の葬列だ!」

 そう、その一団は葬列だった。

 僧侶である蒼空を先頭に、喪服を着た村人たちが続いている。列の中央には、白木で作られた棺があった。村の男衆と葬儀社の人間らしい男たちが、大人ひとりがすっぽり収まるサイズの棺を担いでいる。