龍神様の押しかけ嫁

 珍しく青空が顔を覗かせたとある冬の日。

 その日は、なんの変哲もない普通の一日になるはずだった。

 雪嗣は、降り積もった雪を掻き分けながら、村を見下ろす高台に向かっていた。

 社が破壊され、碌に参拝を受けられない今、雪嗣にできることと言えば、目視で村に異常がないか確かめることくらいだったからだ。

 雪嗣は必死だった。それもこれも、己自身の終わりを自覚したからだ。

 たったひとりの氏子が死んだだけで、穢れとのパワーバランスが崩壊した。

 そのことは、雪嗣にとって衝撃であり、そして屈辱的なことであった。

 近隣に棲まう土地神に助力を願い、なんとか穢れを押さえ込むことはできているものの、それもいつまで続くかわからない。龍沖村になにかあっては遅いのだ。だから、雪嗣は叶海のことが気になりつつも、目の前のものを守ることに全力を注いでいた。

 すべては、自分を信じてくれている者のために。

 それが神というものであり、自分自身の個人的な感情を優先するべきではない。それに、堅実に村を守り続けることは、回りまわって叶海を守ることにも繋がるはずだ。

 雪嗣はそう自分を納得させていた。納得……できているはずだった。