龍神様の押しかけ嫁

 ――やめて!

 とうとう口調までズレてきた夢の中の叶海に、意識だけの叶海は悲鳴を上げた。

 ――あなたは誰なの。どうして、私はずっとこんなものを見せられているの。

 彼と結ばれたい。一緒にいたい。叶海が(・・・)願っているのはただそれだけなのに、どう足掻いても上手く行かない。大好きだった父が怖い。痛い。嫌だ。もう殴らないで。でも……でも、諦められない。諦めたくない!

 私は――彼が好きだから!

 その瞬間、叶海はハッと正気に戻った。

 今、自分はなにを考えていたのだろう。これは夢で現実じゃない。現実じゃないはずなのに、生々しい感情が流れ込んできて、自分のことのように心が揺れる。

 ――私は、なんだっけ……。

 ぼんやりと自分の状況を顧みても、まるで靄がかかったようになにも考えられない。

 むしろ、自分の生きている時代が、夢の中のものと同じだったとすら思えてしまう。

 ――やばい。呑まれる(・・・・)……!

 危機感を覚えた叶海は、夢から醒めようと必死に藻掻いた。

 しかし、そんな叶海を嘲笑うかのように、再び場面は切り替わる。

 ――そして、不気味なほど大きな月が見下ろす冬の夜。

 叶海は風呂敷包みを手に走っていた。