龍神様の押しかけ嫁

『お前、握り飯すら上手く握れないだろ?』

『うう、意地悪……』

『仕方ないな。慣れるまで俺が手伝ってやる』

『……料理、からっきしじゃなかった?』

『な、なんとかする!』

『フフ、期待してるね』

 幸せそうに笑う叶海。

 しかし、料理を得意とする叶海が、こんな会話をするわけがない。

 ――やめて。お願い。あなたは……私でいて(・・・・)

 だから、叶海は夢を見る度にこう願った。

 彼の隣で穏やかに笑って、只々、幸せを噛みしめていたい。

 私が私として、私だけの幸せを感じていたい……!

 何度も何度もそう願った。

 それは現実ではなく、夢の中での話だ。眠っている間だけに叶う、本当にちっぽけな願い。けれども人生と同じように、夢の中ですら思うままにいかないことに、叶海はじれったさを感じていた。