龍神様の押しかけ嫁

 一方その頃、叶海はまた夢を見ていた。

 まだ日の沈まぬ明るいうちだ。眠るには随分と気が早い。しかし、夢の中の男性に心奪われてしまった叶海は、辛すぎる現実から逃れるかのように、一日のうちの大半を布団の中で過ごすようになっていた。

『――ほら、言ったでしょ。私ってば裁縫だけは自信があるんだから』

 縁側に座った叶海は、着物の縫い目を男性に見せて微笑みかけた。

 すると、男性は繁々とそれを眺めると、感心したように頷く。

『流石だな。これで、料理が壊滅的じゃなかったら完璧なのに』

『な、ななな……! 料理はこれから練習するの! そんなこと言わないで!』

 痛いところを突かれた叶海は、カッと顔を赤くして男性をポコポコ叩く。すると、男性は叶海の攻撃を手で避けつつも、楽しそうに肩を揺らした。

 ――違う! 私が得意なのは料理なの……!

 こんな和やかな光景の中にいながら、夢を見ている叶海の心は平静ではいられなかった。何故ならば、ここ数日、酷い違和感に見舞われていたからだ。

 現実の叶海と、夢の中の叶海。

 徐々にその違い(・・)が明らかになってきて、叶海は哀しみに暮れた。

 普通ならば、夢は一度きりのものだ。たとえ何度か同じ夢を見たとしても、人はそれほど夢の内容に執着はしない。しかし、この夢は叶海にとっての救いだった。隣に座る彼と過ごす時間は、叶海にとってかけがえのないもので、癒やしで、逃げ場所で、なにより失いたくないものだったのだ。なのに――。