「おい! 雪嗣!」
息を切らし、汗だくになりながらも、ようやく雪嗣の社へ到着した蒼空は、どこにいるかわからない幼馴染みに向かって声を張り上げた。
しかし、蒼空の声に応えるものは誰もいない。
穢れの攻撃により無残にも崩れてしまい、瓦礫の山となってしまった境内には、不気味なほどの静寂が満ちている。
「……チッ」
思わず舌打ちを漏らした蒼空は、手近にあった瓦礫の上の雪を払い、どかりと座り込んだ。懐を探って煙草に火を着けると、忌々しげに周囲に視線を巡らせる。
――気配はある。隠れてやがるな。
ため息をつきたい気持ちをグッと堪え、蒼空は渋い顔をしたまま、恐らくこちらの様子を窺っているだろう友へと語りかけ始めた。
「手続きは順調に進んでる。うちのオヤジが議員共の尻を叩いてるから、年が明けて、議会が再開したら動き出すはずだ。それまで辛抱してくれ」
どさり、とどこかで雪が落ちた音がする。蒼空は短髪を指でボリボリ掻くと、そのまま話を続けた。
「和則さんちの俊子さんは、子どものところで元気にやってるそうだ。ひ孫の面倒を押しつけられて、この村にいた時よりも随分と忙しいらしい。電話越しで笑ってたよ」
そこまで話すと、蒼空はちらりとある場所へと目線を向けた。
それは、焼け落ちてしまった雪嗣の家だ。黒焦げた梁が、降り積もった雪の合間から天に向かって突き出し、風が吹くと焦げた臭いが鼻につく。ほんの少し前まで、そこで繰り広げられていた叶海と雪嗣のやり取りを思い出しながら、蒼空は苛立ちをぶつけるかのように言った。
「――なあ。雪嗣よ、どうして叶海の記憶を消した?」
小鳥が囀る。けれど、雪嗣からの反応はない。
「てめえ! 逃げてんじゃねえぞ!」
蒼空が叫ぶと、声に驚いた小鳥が飛び去った。
「叶海の気持ちを受け入れられねえなら、きちんと振ってやればよかったんだ! あんな曖昧な関係じゃなく、きっぱりと断ればよかった! それなのに、てめえは記憶を消した。お前のことを、心底好いている女が後生大事に抱えているもんを、自分勝手に奪い取ったんだ!」
そして、すうと息を吸い込むと、更に声を張り上げて叫んだ。
「死んだ女がなんだ! 今大事なのは、目の前にいる女だろうがよ!」
ここまで一気に話し終えると、流石の蒼空も息が切れた。
肩で息をして、深く煙草を吸う。
そして紫煙を吐き出しながら、苦しげに眉を顰めた。
「コソコソ隠れて、俺の前にすら姿を現しもしねえ神様は知らねえだろうが、アイツすげえ弱ってる。どうするつもりだ、叶海になにかあったら」
しかし、ここまで話しても雪嗣から反応はない。
蒼空は煙草を雪上に落とすと、まるで扱いきれない感情を発散するかのように、ぐりぐりと踏みしめた。
「このままお前がなにもしねえなら、叶海は俺が貰っちまうぞ。いいんだな!」
吐き捨てるようにそう言って、くるりと踵を返す。そして、蒼空はどこか弱々しい声で続けた。
「神様なら、間違ったことはすんな。いつだって正しい選択をしてくれ。女を悲しませるような真似はすんじゃねえよ。頼むよ……」
そして、再び降り積もった雪を踏みしめながら、蒼空はまるで希うように囁く。
「アイツの心を埋めるのは、俺じゃ無理なんだよ。叶海が……初恋に呪い殺される前に、助けてやってくれよ、神様。このままじゃ、アイツが死んじまう」
息を切らし、汗だくになりながらも、ようやく雪嗣の社へ到着した蒼空は、どこにいるかわからない幼馴染みに向かって声を張り上げた。
しかし、蒼空の声に応えるものは誰もいない。
穢れの攻撃により無残にも崩れてしまい、瓦礫の山となってしまった境内には、不気味なほどの静寂が満ちている。
「……チッ」
思わず舌打ちを漏らした蒼空は、手近にあった瓦礫の上の雪を払い、どかりと座り込んだ。懐を探って煙草に火を着けると、忌々しげに周囲に視線を巡らせる。
――気配はある。隠れてやがるな。
ため息をつきたい気持ちをグッと堪え、蒼空は渋い顔をしたまま、恐らくこちらの様子を窺っているだろう友へと語りかけ始めた。
「手続きは順調に進んでる。うちのオヤジが議員共の尻を叩いてるから、年が明けて、議会が再開したら動き出すはずだ。それまで辛抱してくれ」
どさり、とどこかで雪が落ちた音がする。蒼空は短髪を指でボリボリ掻くと、そのまま話を続けた。
「和則さんちの俊子さんは、子どものところで元気にやってるそうだ。ひ孫の面倒を押しつけられて、この村にいた時よりも随分と忙しいらしい。電話越しで笑ってたよ」
そこまで話すと、蒼空はちらりとある場所へと目線を向けた。
それは、焼け落ちてしまった雪嗣の家だ。黒焦げた梁が、降り積もった雪の合間から天に向かって突き出し、風が吹くと焦げた臭いが鼻につく。ほんの少し前まで、そこで繰り広げられていた叶海と雪嗣のやり取りを思い出しながら、蒼空は苛立ちをぶつけるかのように言った。
「――なあ。雪嗣よ、どうして叶海の記憶を消した?」
小鳥が囀る。けれど、雪嗣からの反応はない。
「てめえ! 逃げてんじゃねえぞ!」
蒼空が叫ぶと、声に驚いた小鳥が飛び去った。
「叶海の気持ちを受け入れられねえなら、きちんと振ってやればよかったんだ! あんな曖昧な関係じゃなく、きっぱりと断ればよかった! それなのに、てめえは記憶を消した。お前のことを、心底好いている女が後生大事に抱えているもんを、自分勝手に奪い取ったんだ!」
そして、すうと息を吸い込むと、更に声を張り上げて叫んだ。
「死んだ女がなんだ! 今大事なのは、目の前にいる女だろうがよ!」
ここまで一気に話し終えると、流石の蒼空も息が切れた。
肩で息をして、深く煙草を吸う。
そして紫煙を吐き出しながら、苦しげに眉を顰めた。
「コソコソ隠れて、俺の前にすら姿を現しもしねえ神様は知らねえだろうが、アイツすげえ弱ってる。どうするつもりだ、叶海になにかあったら」
しかし、ここまで話しても雪嗣から反応はない。
蒼空は煙草を雪上に落とすと、まるで扱いきれない感情を発散するかのように、ぐりぐりと踏みしめた。
「このままお前がなにもしねえなら、叶海は俺が貰っちまうぞ。いいんだな!」
吐き捨てるようにそう言って、くるりと踵を返す。そして、蒼空はどこか弱々しい声で続けた。
「神様なら、間違ったことはすんな。いつだって正しい選択をしてくれ。女を悲しませるような真似はすんじゃねえよ。頼むよ……」
そして、再び降り積もった雪を踏みしめながら、蒼空はまるで希うように囁く。
「アイツの心を埋めるのは、俺じゃ無理なんだよ。叶海が……初恋に呪い殺される前に、助けてやってくれよ、神様。このままじゃ、アイツが死んじまう」

