龍神様の押しかけ嫁

「……ああ! 駄目だ駄目だ!」

 すると突然、幸恵は大声を出した。ふたりが驚いた顔をして幸恵を見つめている。

 幸恵はぐっと口を引き結び、顎を引くと、ふんと鼻から息を吐き出して言った。

「なにもできねえとか、クヨクヨクヨクヨしてんのは性に合わねえ!」

 そして強く拳を握りしめると、ふたりに向かって力強く言った。

「なにもできねえなら、できねえなりに、やれることを探すべ! この村には年寄りばっかで、どう足掻いたって死神さんのお迎えは免れねえ。なら! なら……この村に住みてえって来てくれた若いもんのために、なにかするべきじゃねえか!?」

 すると、キョトンと幸恵を見つめていたみつ江と保子は、お互いに顔を見合わせると、次の瞬間に噴き出した。そして、熱弁している親友へ優しい眼差しを向ける。

「結局、孫のことに戻るんだな」

「孫は可愛いもんなあ」

「そうじゃねえ! ……い、いや。孫は可愛いけんど。叶海のためだけじゃねえんだ。ふたりとも思い出してみろ。叶海と一緒にいる時の、龍神様の顔」

「それは……」

 ひたすら求婚しまくる叶海に、雪嗣も初めのうちは困惑しているようだった。

 しかし、時が経つにつれて、雪嗣の反応が変わって行く。

 幸恵の中にある雪嗣像は、神らしいどこか凜とした姿だった。そんな彼が、徐々に叶海の存在を受け入れて、よく笑うようになったのだ。

 それは、幸恵にとって驚きだった。

 雪嗣とは生まれた時からの付き合いだ。彼のことはよく知っていると思っていたのに、ほんのりと頬を染めて、顔をクシャクシャにして笑ったり、怒ったり、戸惑ったりする姿は本当に新鮮で。

 どこか人間臭い雪嗣の姿に、幸恵は彼という神の存在を益々好きになってしまった。