龍神様の押しかけ嫁

「仕方のないことだべ」

 すると、村の最高齢であるみつ江が、どこか弱気な口調で言った。

「オラたちにはどうしようもねえ」

「……そうだな」

 みつ江の言葉に、幸恵は反論できなかった。

 若い頃ならともかく、年老いてしまった幸恵にはできることはない。

 無力な幸恵たちには、自分の人生が詰まった場所が、徐々に朽ちていくのを眺めることしかできないのだから。

「せっかく、龍神様が守ってくださった村だのに……」

 見ると、保子が涙ぐんでいる。俊子と一番仲がよかったのは保子だった。それもあり、誰よりも俊子がいなくなったことにショックを受けているようで、最近の保子は沈みがちだった。

「この村がこんな風になったのは、龍神様のせいじゃねえ。オラたちのせいだ。なんだか申し訳ねえよ」

 保子の言葉に、幸恵は年輪のように皺が刻まれた自分の手をじっと見つめた。

 申し訳が立たない――それは、幸恵たち全員が共通して抱いている感情だ。

 この村で生きる時間が長い者ほど、雪嗣から貰った恩恵を実感している。すべてを破壊し尽くしそうなほどの大型台風が来た時も、大雨が何日も続いた時も、この村の人間はいつだって心穏やかでいられた。自分たちには雪嗣がついている。それはなによりも心強かったし、実際に大きな災害に見舞われたことはないのだ。

 だから、村人はみんな雪嗣へ感謝している。同時に罪悪感に見舞われるのだ。

 これほどまでに人が減ってしまったのは、決して雪嗣のせいではないのだから。

「歳ばっかり取って、情けねえことだな」

 幸恵はぽつりと呟くと、グッと手を握りしめた。

 その時、幸恵は少し前の出来事を思い出していた。それは、冬かと見紛うばかりに冷え込んだ秋の日。叶海を雪嗣が家まで送り届けてくれた時のことだ。

 その時、叶海は意識を失っていて、驚いている幸恵に雪嗣はこう言った。

『病や怪我ではない。ただ、俺に関する記憶を失っている。詳しくは聞くな。だが、そのせいで色々と不安定になるだろう。悪いが、助けてやってくれ』

 もちろん、と頷いた幸恵に、雪嗣は一言一言を噛みしめるように言った。

『よろしく頼む』

 その時の雪嗣の青ざめた顔。儚げな笑み。

 生気のない顔――。

 初めて見る雪嗣の表情に、幸恵は酷く驚いたのを覚えている。