「――もう、この村は終わりなんだべか」

 まるでパーツが失われたパズル。幸恵には、今の龍沖村がそんな風に見えていた。

 かつてこの村は、もっと賑やかだった。

 そもそも、昔は一家族の人数が違った。四人兄弟、五人兄弟なんてざらで、家族総出で畑仕事に汗を流したものだ。各家庭では家畜が飼われ、糞尿の臭いにはうんざりしたけれども、まるで家族のように世話をしていた。村の中には、常に人の笑い声や家畜の鳴き声が満ちていた。

 食べ物だって、今よりは随分と質素だった。正月に食べる餅がなによりのご馳走で、兄弟で競争しながら食べたものだ。年寄りだって今よりも元気だったように思う。春の山へ、山菜採りに分け入る年寄りの足の速さと言ったら! 若者はついていくのに精一杯で、「これだから若いもんは」と笑われたものだ。

 あの頃は貧しかった。

 けれど、今よりは確実に心が豊かだったように思う。

 なのに、今はどうしたことだろう。

 若者たちは去って行き、残されたのは碌に動けない年寄りだけ。誰も手入れをしない田畑は荒れ、ぼうぼうと雑草が生い茂っている。冷え切った空き家は闇に沈み、放置された家は崩落の危機に瀕しているのが大半だ。

 確かに便利な時代になった。昔は想像もつかなかったようなご馳走が、簡単に食べられるようになった。経済的に豊かになったのは間違いない。

 しかし、時代に置いて行かれた龍沖村は、そうも言っていられない。

 ――しん、と静まりかえった村は「のどか」なんてレベルではない。

 まるで、死神に首を掻ききられそうになっている瀕死の病人のようではないか。