――あれ。

 その瞬間、叶海は違和感を覚えた。

 本当に……自分は誰にも好意を向けたことがないのだろうか?

 そんな疑問が、頭の中に唐突に沸いてくる。

 ――駄目だ。なんだろう。モヤモヤする……。

 するとその時、夢の中の叶海が動いた。

『今日はね、君にプレゼントを持ってきたんだ!』

『なんだ?』

『フフフ! ちょっとこっち見て――』

 おもむろに身体を起こした夢の中の叶海は、懐からなにかを取り出して、膝枕をしていた男性に手を伸ばした。

 ちらり、叶海の視界に赤いものが入り込む。

 それは真っ赤な布地だった。よくよく見ると、手縫いで端が処理されている。シンプルだが、丁寧に作られたのが一目で分かる品だ。

 それを手にした叶海は、男性に抱きつくような恰好になった。そして、初雪のように穢れのない白髪に触れ――赤い布で結んでやる。

『髪を結ぶもの、なにかないかって言ってたでしょ? これ……布地に梅の文様を縫い取ってあるんだ。あげるよ』

 そして、上手く結べたことを喜んだ叶海は、そっとその人から身体を離すと、俯いたままはにかみ笑いを浮かべた。

 ――あ。顔が見られるかも……。