――ああ。心が、身体が……甘ったるい。

 叶海は、全身に行き渡った未知の感情に、擽ったさを覚えつつも嬉しく思った。

 しかし、この極上の夢にはひとつ変わった部分があった。

 それは、相手の顔も、名前すらもわからないということだ。

 ――この人、一体どんな顔をしているのだろう……。知りたいな。

 初めは、知り合いなのかとも思った。しかし、まったく思い当たる人物がおらず、途方に暮れてしまった。だから今では、その人物は叶海自身の想像力が創り出したものなのではないかと考えていた。

 ――でも。感触とか結構リアルなんだよね……。

 ぼんやりそんなことを考えていると、勝手に(・・・)叶海の口が動いた。

『言ったでしょ? 絶対に君のお嫁さんになるって』

 明晰夢と違い、この夢の中では、叶海はあくまで傍観者だ。

 夢の中の叶海は勝手に喋るし、動く。操作できないVRのようなものだ。

 だから、意識とは関係なく自分の口から漏れる甘えた声に、意識だけの叶海は、いつだって悶える羽目になった。

 ――夢の中の私ってば。この人のこと心底好きなんだな。

 叶海は内心でため息を漏らすと、誰かにまっすぐ好意を向けている夢の中の自分を羨ましく思った。

 なにせ、蒼空に言ったように、叶海自身は恋をしたことがない。

 誰かに対してときめいたことすらないのだ。