不思議なことに、叶海は何度も何度もある夢を見るようになったのだ。

 それはひとりの男性と過ごす夢だ。

 特段、夢らしい派手な展開があるわけでもなく、のんびりと日常を過ごすだけの夢。

 けれどそれは、現状に不満や不安しかない叶海にとっての癒やしだった。

 ――楽しみだな……。

 叶海はふんわりと頬を緩めると、徐々にこみ上げてきた眠気にその身を任せた。



『……お前は本当に困った奴だ』

 とろり、夢の中に落ちた叶海は、誰かに膝枕をしてもらっているのに気が付いた。

 そこは、畳敷きの――どこか古めかしい和室だ。既に日が落ちているようで、行燈の黄みがかった温かな明かりだけが、周囲に満ちている。

 叶海が枕代わりにしている太ももは男性のものらしく、引き締まっていて少し硬い。そのせいか決して寝心地はよくない。しかし、叶海にとってはそんなことはどうでもよかった。それよりももっと、重要なことがあったからだ。

 結い上げているらしい叶海の頭をなぞるように、どこかひんやりとした手が往復している。成人男性と思わしきその人物の手付きは、どこまでも優しく、丁寧だ。

 それはまるで、壊れやすいものにそっと触れるような――そんな手付き。

 その人が叶海自身を心から大事にしてくれているのが伝わって、心がひたひたに満たされていく感じがする。

 ――気持ちいい。イライラしてた気持ちが、嘘みたいに晴れちゃった。
嬉しくなった叶海は、まるで猫がするみたいに、その人の手に頭を擦り付ける。

 するとその人はクスクスと「お前は甘えん坊だな」と笑った。

 そして、叶海の願いに応えるかのように、何度も手を往復させる。そのたびに、叶海はうっとりと目を細めた。