「お前も食えよ。風邪予防にもなるしな」

「母親みたいなことを……」

「ワハハ! お前を産んだ覚えはねえなあ」

 すると、それまでにこやかに笑っていた蒼空だったが、途端に表情を消した。

 そして、じっと叶海の様子を観察するように眺めると、どこか真剣な顔で言った。

「どうだ。最近」

「どうだって……なによ。見ればわかるんでしょ」

「なるほどなるほど。絶不調か。理解した」

 そして叶海の横に座り込むと、一瞬だけ黙り込み、どこか慎重な口ぶりで訊ねた。

「そういやお前、結婚の予定は?」

 すると、叶海はパチパチと何度か目を瞬くと、困ったように眉を下げた。

「やだ。忘れちゃったの? 私、生まれてこの方……一度も(・・・)、誰かに恋をしたことないんだってば。知ってる癖に」

「そうだったか?」

「そうだよ。あ~あ。一度でいいから燃えるような恋をしてみたいな。このままじゃあ、一生独身決定じゃん。孤独死まっしぐらだわ~」

 叶海はゴロゴロ床を転がると、なにかを思いついたのか、悪戯っぽい眼差しを蒼空に向けた。

「そう言えば、蒼空ってまだ独身だよね。私なんてどうよ。お寺の嫁って大変そうだけど、まあ……それなりに上手くやれそうじゃん? 愛はないかも知れないけど、幼馴染みで気心知れてるし。まあ、大丈夫でしょ」

 ニシシ、と白い歯を見せて叶海が笑う。すると、蒼空は心底深いため息をつくと、恐ろしく嫌そうな顔になった。

「ふざけんなよ。俺にも選ぶ権利ってもんがある」

「うええ、酷くない!? 私のどこが不満だってのよ~」

「全部だ、全部。生まれる前から出直してこい」

「女だったら誰でも口説く癖に! 蒼空のアホー!」

「なんとでも言え」

 蒼空はすっくと立ち上がると、「次に会うまでには機嫌を直しておけよ」と言って、部屋から出ようとした。叶海は少しだけ考え込むと、蒼空の背中に声をかける。