「まったくもう。日がな一日ゴロゴロして」

 ストーブの前に寝転んでいる叶海に、幸恵が呆れた声を上げている。

 しんしんと雪が降り積もる冬のある日――叶海は小さく唇を尖らせると、ゴロリと祖母とは反対側を向いた。

「仕方ないでしょ。絵を描く気分じゃないの。休憩よ、休憩!」

「そう言って、何日もスマホを弄ってるだけだべ? 大丈夫かいな、締め切りとか」

「……大丈夫だってば、お婆ちゃんが気にすることじゃないでしょ!」

「へいへい、そうですか。口うるさいババアで悪かったなあ」

「そんなこと言ってないし」

「なに思ってるかくらい、態度で分かるんだ。この歳になると」

 そう言って、幸恵はにんまり笑うと店の方へと消えた。すると、叶海の耳に賑やかな声が届いた。居間の隣にある店舗、そこのカフェスペースで、村の女性たちが集まって、いつものように駄弁っているのだ。

「叶海ちゃんも来るかー?」

 すると、みつ江が声をかけてきた。しかし、叶海は聞こえないふりを決め込むと、おもむろにスマホの画面をスワイプした。

 その時、からりと引き戸を開けて誰かが入ってきた。浅黒い顔、特徴的な垂れ目、線香の香りがする黒衣――蒼空だ。

「おお、どうした。不貞腐れた顔して」

「蒼空までそんなこと言うの」

「お前はなんでも顔に出るからな。見りゃ誰でもわかる」

「……うう。そんなに~?」

 叶海は両手で自分の顔をムニムニ弄ると、どこか不満げに半眼になった。

 蒼空はそんな叶海を余所に、マイペースに部屋の中を縦断すると、ひょいと店の方へ顔を出す。

「幸恵さん、みかん持ってきたから。玄関に置いてある」

「おお、蒼空。悪いなあ。いくらだ?」

「檀家から大量に貰ったんだ。お裾分けだ。結構美味かったぞ。ああ、そこのお嬢さんたちもどうぞ」

「あらまー! お嬢さんだってよ!」

「いい男は言うことが違うな」

「アッハハハハ!」

 村の女性たちに愛敬を振りまいた蒼空は、おもむろに室内に戻ってくると、叶海の頭をぽん、と叩いた。