――ああ。よかった。生きている……!

 叶海はその大きな瞳に自分の顔が写っているのを確認すると、震える声で訊ねた。

「どうしたの。なにがあったの……? どうしてそんな姿に」

 ……そう、そこに横たわっていたのは、龍の姿へと戻った雪嗣だった。

 あの春の日――叶海が目撃した時に比べると、随分とあちこち薄汚れている。純白の身体は血で濡れ、長い髭は泥に塗れ、更には立派な角が片方折れてしまっていた。あんまりなその姿に、叶海は涙が零れそうになるのを必死に堪える。

 すると、叶海をじっと見つめていた雪嗣は、どこかホッとした様子で言った。

「……ああ。どこかへ出かけていたのか。それはよかった」

「よくない。こんなに傷だらけになって! 村にいたらすぐに駆けつけられたのに!」

 すると雪嗣はクツクツと喉の奥で笑うと、身体が痛んだのか顔を歪めた。そして、ふう、と長く息を吐くと話しを再開した。

「馬鹿を言うな。お前はきっと、俺が痛めつけられているのを見たら、なにも考えずに飛び込んでくるだろう?」

「……当たり前でしょ」

 叶海は零れそうになった涙を袖で拭うと、はっきりと断言した。

「好きな人が危険な目に遭っていたら、絶対に駆けつけるよ」

 すると、雪嗣はぱちくりと大きな瞳を瞬きして、そして小さく笑った。

「まだ――俺を好きだと言ってくれるのか。あんな酷いことをしたのに」

 耳慣れた雪嗣の声に、叶海の胸がきゅう、と締めつけられる。身体の奥底から愛おしさが溢れてきて、叶海は小さく頭を振ると、雪嗣の頭に抱きついた。

「当たり前でしょ。……私をなめないでよ。雪嗣を嫌いになれるわけない」

 すると雪嗣が小さく震えた。