叶海の耳に届くのは、動揺のあまり乱れた自身の呼吸音だけだ。

「クソ! なにがあったんだ」

 蒼空が焦った声を上げる。

 叶海は己の身体を抱きしめると、辺りをぐるりと見回した。

 そこに広がっていたのは、なんとも凄惨な光景だった。

 鼻を突くのはなにかが燃える臭い。目に飛び込んできたのは、崩れた石段に、折れてしまった木々。ふと叶海が石段の頂上に目線を遣ると、煙がもうもうと立ち上がっているのが見えた。社か、はたまた雪嗣の住まいが燃えているのかも知れない。

 そしてなにより――石段の下。崩れた石段が散乱するその場所に、信じられないものが横たわっているのが見える。

 叶海はヨロヨロとそこへ近づくと、かくりとその場に膝をついた。

「……ゆき、つぐ……?」

 そっと手を伸ばす。叶海の指先に触れたのは、血で濡れた純白の鱗だ。

 すると、それはうっすらと瞳を開けた。黄金色の、収穫期の稲穂を思わせる瞳の色に、堪らなく懐かしさを覚えて、叶海は泣きそうになった。