しかし――。

 龍沖村まであと少し、という所まで来た時だ。遠く、雪嗣の社のある方向に、不自然な黒雲が垂れ込めているのを見つけてしまった。

「なに、あれ……」

 それは、ゲリラ豪雨の前触れに起こる気象現象に似ていた。しかし、すでに初冬だ。時期的に起こるはずもない。呆然と呟いた叶海は、サッと青ざめた。

「チッ、嘘だろう……!? 叶海、掴まってろ!」

 すると、蒼空はバイクの速度を上げた。龍沖村へ続く道は、くねくねと曲がりくねった山道だ。その中をバイクで猛然と走り抜けるのはかなりの恐怖を伴ったが、叶海は悲鳴を押し殺し、蒼空にしがみつきながらこう願った。

 ――どうか。どうか……雪嗣になにごともありませんように……!

***
 
 叶海が社へ続く石段の下へ到着した時、辺りはしん、と静まりかえっていた。

 長時間、慣れない体勢でいたせいで固まってしまった身体を無理矢理動かし、バイクからそろりと降りる。

 風は凪ぎ、降り積もった落ち葉は物音ひとつ立てない。