思わず叶海が首を傾げると、蒼空はカラカラと愉快そうに笑った。

「つまりは、俺らから見てありえねえ奴のことは、雪嗣だってありえねえって思うってことだよ。なあ、叶海。雪嗣はお前になんて言ったんだっけ? 『自分は梅子だと言ってくれ』だっけか。それってつまり――」

 そして蒼空はもったいぶるように言葉を区切ると、噛みしめるように言った。

「お前が梅子だったらいいなってことだよ。自分にとっての最愛の女が、叶海であって欲しいって思ってるってことだ。本人が気づいてるかどうか知らねえけどな」

「…………! い、いや。待って」

 叶海は蒼空の言葉をすぐには信じられなくて、思わず黙り込んだ。

 蒼空の言っていることの理屈はわかる。たとえ前世愛した相手であっても、本人そのものの姿、性格で生まれ変わるわけではない以上、齟齬が起きることは簡単に予想がつく。雪嗣だって、それを理解しているだろう。しかしそんな雪嗣が――叶海が梅子であって欲しいと願ったのなら、それは雪嗣が叶海自身を好ましく思ってくれている、ということではないだろうか。

「……嘘」

「俺は、嘘をつかねえ」

「……うう」

 叶海は蒼空の背中に額を擦り付けた。そして自信なさげに呟いた。

「私、まだ諦めなくていいのかな……?」

 すると、蒼空はブルン、とバイクのアクセルをふかして陽気に答えた。

「俺が保証するぜ。叶海、お前は案外いい女だ!」

 じん、と叶海の胸が震える。蒼空の言葉が沁みて、どうしようもなく泣きたくなる。

 叶海はおもむろに天を仰ぐと、涙が滲んだ瞳を何度か瞬いて、ぎゅう、と蒼空の背中を抱きしめて言った。

「私、もう少し頑張ってみる。もうちょっとだけ、この初恋が報われるようにやってみるよ。蒼空、ありがとう。あんたは最高の幼馴染みだよ!」

「ワハハハハ! んなもん、言われなくてもわかってる!」

 蒼空は腹部に回った叶海の手をぽん、と叩くと、一路、龍沖村に向かってバイクを走らせた。