「…………」

「俺の知ってる叶海なら……そんなもん知らねえ! 現実を見ろ、目の前にこんなにいい女がいるんだーって、押し倒しそうなもんだけどな」

「押しっ……!?」

「既成事実を作っちまえばこっちのもんだ」

「ちょっと!」

 叶海は、真っ赤な顔のままワナワナと震えると、蒼空の背中に額を押しつけて、酷く困惑した様子で言った。

「でも。でもさ、それってすごく自分勝手じゃない? 雪嗣は梅子って人が好きなんだもん。私が入り込む余地なんてない」

「生きてる恋人ならともかく、死人に遠慮する必要はねえだろ」

「そう……かも知れないけど」

 弱々しい声を上げた叶海に、蒼空は楽しげに続けた。

「それに、考えてもみろよ。梅子とかいう女の生まれ変わりが……たとえば、さっき動植物園で見た猿だったとするだろ」

「なんで猿……」

「いいから聞けよ。梅子が猿に生まれ変わったとして、果たして雪嗣はその猿と結婚すると思うか?」

 龍神と猿の夫婦。なんとも珍妙な組み合わせである。

 叶海は複雑な想いを抱きながらも、小さく首を振って否定した。

「そりゃあ、しないと……思う、けど」

「普通だったらしねえよな。まあ、別に猿じゃなくていいんだ。たとえば、ゴッツイ男だったら? 性格最悪な女だったら?」

「……そんなの、雪嗣に聞かないとわかんないよ」

「まあな。だが、アイツの幼馴染みの俺にはわかるぜ。雪嗣は、人間に近い感覚を持ってる。長らくこの世界で暮らしてきたせいだろうな。普通にしてたら、神かどうかわかんねえくらいに馴染んでる。アイツは俺たちとは根本的に違う(・・)生き物だが、俺たちと同じ(・・)でもある」

「……なに言ってるかわかんないんだけど?」