「冗談に聞こえないんだから。蒼空の馬鹿」

「アッハッハ! 悪ぃ、悪ぃ。あんましメソメソしてるからよ。ここは一発かましてやろうと思ったんだ」

「悪かったね、未だ傷心を引きずってて」

 すると、蒼空は笑うのを止めて、じっと叶海を見つめながら言った。

「いいんじゃねえの。俺は――お前の一途なところ、好きだぜ」

「……っ!」

 叶海はパッと顔を赤らめると、次の瞬間には脱力して微笑んだ。

「ありがと。……巫山戯たことも言ったりするけど、なにがあっても傍で励ましてくれる蒼空のこと、私も好きだよ」

 そして、ニッと白い歯を見せて親指を立てた。

「ほんと! 世の中の女は見る目がないね。こんないい男を放っておくなんてさ」

 叶海の言葉に、蒼空は一瞬だけ瞳を揺らすと、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「お前が言うな」

「……? どういうこと?」

「ええい、忘れろ。そら、さっさと残り食っちまえ。暗くなる前に帰るぞ」

「はあい」

 叶海はすっかり冷めてしまったうどんに向き合うと、残った麺を啜り始めた。

 叶海の様子を半ば呆れて見つめていた蒼空は、ふと購入したうどんを取り忘れていたのを思い出して渋い顔になった。恐る恐るうどんを自販機から取り出した蒼空は、伸びきってしまったそれを前に、ぐっと眉根を寄せる。

「……厄日かよ」

 そして蒼空は、くつりと喉の奥で笑うと、子どもの頃と同じように、叶海と大騒ぎしながら食事をしたのだった。