すると蒼空は叶海の涙を親指で拭うと、切なげに言った。

「俺にしろよ。雪嗣じゃなく」

「そう、くう……?」

「同じ幼馴染みだ。あんまし変わんねえだろ?」

 そう言って、蒼空は叶海の顔にかかった髪を耳にかけてやった。

 その瞬間、カッと身体が熱くなった叶海は、勢いよく顔を逸らした。

 ――なに。なんなの。どういうこと……!?

 混乱の極地に陥った叶海は、動かない頭で必死に考えを巡らせた。

 今まで叶海自身、蒼空からそういう(・・・・)気配を感じたことはなかった。

 雪嗣を好きだと宣う叶海を、蒼空がおちょくることはあったが、叶海に好意を寄せているような素振りは欠片もなかったのだ。そして叶海自身も、蒼空をそういう対象に考えたことはない。いや、もしかしたら蒼空からアピールがあったかも知れないが、叶海はこれっぽっちも気が付いていなかったのだ。