クリーム色のプラスチックの器の中には、かき揚げとネギが乗った天ぷらうどん。叶海は当時のことを思い出しながら、ひとくち啜った。

「……美味しい。変わらない味」

 素朴で飾らないその味は自然と舌に馴染む。うどんは柔らかめ。それと、あの頃は取り合いになった天ぷら。玉ねぎたっぷりのそれを汁によく浸して食べると、中からじゅわっと熱い汁が溢れてくる。野菜の甘さと塩分の比率がなんとも絶妙で、うどんと交互に食べると箸が止まらない。

「はあ……」

 ひとしきり食べた叶海は、一旦器を置いた。そして、ぷかぷかと汁に浮かんでいるネギを眺めて、くすりと笑みを零す。

 ――みんなで分け合って食べたうどん。一日のお小遣いが五十円だったあの頃は、ものすごく高く感じたなあ。今じゃ安いくらい。本当……大人になった。

 しみじみと当時を思い出して、これもいつまで食べられるのだろう、とぼんやり考える。昔よりも寂れてしまった動植物園。壊れたら終わりの自動販売機。時が経つというのは、なんて残酷なことだろう。

その瞬間、叶海の脳裏に当時の光景が思い浮かんできた。

『美味しいな。叶海』

『うん。隠れて食べるの、最高だね、雪嗣』

『へっへー! 俺に感謝しろよ、お前ら』

『お金使っちゃった癖に、なによ偉そうに!』

『し、仕方ねえだろ。限定版のカードが売ってたんだから!』

『喧嘩するな、ふたりとも。先生に気づかれたらどうする……』

 ワイワイ騒ぎながら、ぎゅうぎゅうくっつき合って食べたうどん。

 叶海は胸が苦しくなって、硬く目を瞑った。