一通り園内を見終わると、ちょうど昼時になっていた。

 園内に飲食店はなく、小さな売店があるのみだ。しかし、ここでしか味わえないものがあるのを知っている叶海は、ウキウキとその場所を目指した。

「懐かしい!」

 到着したのは、動植物園の隅に設置してある自動販売機コーナーだ。

 トタンで区切られたそこには、様々な自販機が並び、一番奥に叶海の目当ての機種があった。それはうどんの自動販売機だ。かつてはドライブスルーなどで見かけたものだが、ここ最近はめっきり見なくなってしまった。部品の製造が終わってしまったらしく、年々希少価値が上がっている。

「小学校の遠足の時に食べたよね」

 お金を投入した後、うどんが出来上がるまでの間、浮かれた叶海はペラペラと話し続けた。

「この日のためにお小遣いを貯めてたのに、前日に蒼空が自分のぶんを使っちゃって。二種類を三人で分けっこしたんだよね……」

 元々は蒼空が言い出したことだった。子どもながらの誇張を織り交ぜながら、蒼空が「ここのうどんは最高だ!」とふたりにプレゼンしたのだ。だから、お弁当は持参していたものの、どうしてもこれを食べたかった。先生の目を盗んで、自動販売機コーナーの裏でこっそり食べたあの味は、今も忘れられない。

「あれは美味かったなあ。天ぷら、誰が食べるかで揉めたな」

「ジャンケンしたら蒼空が勝っちゃって。お金使い込んだ癖にって喧嘩したねえ」

「今思うと、空気読めって感じだよなあ」

 ふたりで笑っていると、調理終了のサインが光った。

 熱々の器を、苦労してテーブルに移動する。すると、自販機に新たな小銭を入れ始めた蒼空が言った。

「先に食ってろよ」

「あれ、私ひとりで食べていいの?」

「当たり前だろ、子どもじゃあるまいし。何杯でも食え、俺の奢りだ! なあに檀家の金だ、気にすんな」

「逆に気になるんですけど!?」

 軽口を叩きつつも、叶海は箸を手に持つ。